BLM を発端として次々と差別的懸念のある名前の変更が決定されています

「Black Lives Matter (ブラック・ライブズ・マター)」は、2012年にフロリダ州で当時17歳だった黒人の少年が白人警官に射殺された事件を発端に使われるようになった「黒人の命は大切だ」という意味合いの言葉ですが、この人種差別の撤廃を訴える抗議運動は2020年5月25日にアメリカのミネソタ州で黒人男性ジョージ・フロイド氏が白人警官に首を膝で押さえつけられ窒息死した事をきっかけに、現在はアメリカだけではなく様々な国で人種差別に対する抗議運動が拡大しています。

その波はもちろんアボリジに対する差別など様々な問題を持つオーストラリアにも広がっていて、それに伴い様々なブランド名や商品名の名前変更が次々と発表され始めました。

今回はそれらに焦点を当てて、現時点でどんなものの名前変更発表があったのか、オーストラリアを中心にまとめています。

Allen’s のお菓子

Sweets

6月の終わりにオーストラリアでは、ネスレが販売するオーストラリアで昔から親しまれているお菓子ブランド Allen’s のレッドスキンズ (Red Skins) チコス (Chicos) の商品名を変更するという発表がありました。

これらは以前から名前をめぐる論争が繰り広げられていた商品で、ラズベリー味のソフトキャンディである “レッドスキンズ” という名前はネイティブアメリカンを意味する俗語が由来しています。数年前まではパッケージに頭飾りをつけているネイティブアメリカンの男性の絵が描かれていていました。

チコスはチョコレート味のグミキャンディで、チコはスペイン語で男の子という意味の他にラテンアメリカ系の人々にとって不快なものになる可能性がある言葉です。

とりあえず、まだ変更される予定の新しい名前は確定してません。

(参考: Nestle moves to rename Red Skins and Chicos to avoid ‘marginalising’ anyone)

 

 

レッドスキンズと言えば、アメリカのナショナルフットボールリーグチームであるワシントンレッドスキンズも7月13日にチーム名を9月までには変更すると発表しています。

チームのロゴにはネイティブアメリカンが描かれていて長年批判されていたものの、チームのオーナーは絶対に変更したくないという姿勢でした。が、主要スポンサーや取引業者からの強い要求には抗えなかったようです。

(参考: 米アメフトのレッドスキンズ、チーム名変更へ 先住民差別と批判受け)

オーストラリアのチーズ Coon

Coon Cheese

1935年からオーストラリアで売られているクーン (Coon)というチーズの名前も、変更を予定しています。

クーンチーズは、ビクトリア州のワーナンブールにある Cheese and Butter Companyで製造されているチーズの商標で、この会社は現在カナダの Saputo社が過半数を所有していますが、1888年に設立されたオーストラリアで最も古い歴史のある乳製品加工会社です。

“Coon” という名前はアメリカの乳製品パイオニアであるエドワード・ウィリアム・クーン (Edward William Coon 1871–1934) の業績を称えて付けられたそうですが、同時に「ニガー」に相当する黒人に対しての差別的な言葉でもあります。

故にオーストラリアの先住民を侮辱するとして、1999年から先住民の活動家であるスティーブンハーガン氏 (Stephen Hagan) が数十年にわたって名前の変更を求めていたものの、メーカーは抵抗していました。しかし、ついに変更する時が来たようです。

(参考: COON’s parent company confirms the cheese brand will be renamed over racism association / Australia’s Coon cheese to change name in effort to help ‘eliminate racism’)

Uncle Ben’s rice

Uncle Ben's rice

オーストラリアでも売られているアメリカのブランド、アンクルベンズライス (Uncle Ben’s rice) もブランドを変更する必要性に迫られています。

パッケージにはテキサスのアフリカ系アメリカ人農夫として、1946年からベンおじさんのキャラクターが使われていました。このキャラクターはシカゴで愛されていたシェフ兼ウェイターの Frank Brown をモデルにしたそうですが、白人の会社に黒人の顔を使用しているという事実が問題だと指摘されています。

特に1876年から1964年にかけて人種差別的内容を含むアメリの法律ジム・クロウ法 (Jim Crow laws) の時代には、黒人男性を「ミスター」と呼ぶ事を避けるために「ボーイ」や「アンクル」と呼ばれていたため、そういうステレオタイプ的キャラクターの要因を含むとされました。

こちらも現時点では、変更がいつどのように行われるかについては発表されていません。

(参考: Uncle Ben’s rice to change brand as part of parent company’s stance against racism))

エスキモーパイ

https://www.peters.com.au/より

アメリカの会社をベースとするエスキモーパイ (Eskimo Pie) というアイスクリームも、同じく名前を変更すると発表がありました。

エスキモーパイは、1920年にアメリカのアイオワ州で開発され、オーストラリアでも1922年から販売されています。以前は色んなオーストラリアのメーカーが製造していたのですが、現在では1907年から続くアイスクリームの老舗 Peters のみです。

このエスキモーという言葉は、アラスカのイヌイット (Inuit) 系民族とユピク (Yupik) 系民族の人々を指す言葉で、もともとは「かんじき (わらじのようなもの) を編む人」という意味でした。しかし、この呼び名はのちに「生の肉を食べる野蛮な人」という軽蔑的な意味合いでも使用されていた経緯があり、当人たちはこの言葉を好ましく思っていません。

(参考: Eskimo Pie no more: Ice cream owners will drop ‘derogatory’ name / 1922 Eskimo Pie arrives in Australia)

そうなると、オーストラリアでエスキー (Esky) と呼ばれるクーラーボックスはどうなるんでしょうね?この名前、もともとはブランド名で、エスキモーに由来するという説が有力らしいので、呼び方も考えてしまいますよね。

そして、エスキモーと言えば『ピノ』などでおなじみの日本の森永乳業のエスキモーアイスですが、やはりこの名前ももうすぐ終了するそうです。

(参考: アイスの「エスキモー」ブランド31年の歴史に幕 10月以降は「森永乳業」ブランドに)

キャプテンクックホテル→キャプテンパディントン

Captain Cook Hotel

変更になったのは商品名だけではありません。

シドニーで1世紀以上にわたって親しまれて来たキャプテンクックホテル (Captain Cook Hotel) というパブも、7月24日にキャプテンパディントン (The Captain Paddington) という名前に変更されました。

すこし前にキャプテンクックのイベントの記事でも書いたように、以前からオーストラリアにあるキャプテンクックの銅像はオーストラリア大陸侵略の象徴として目の敵にされる動きがあったのですが、今回の BLM の運動によりこのパブもその煽りを受けたようです。

ただ、キャプテンクックの業績とオーストラリア侵略は別の話だという意見も強く、ホテルのオーナーも屋根に飾られているキャプテンクックのオブジェを取る予定はないと述べています。

Captain Cook Hotel

ホテルの名前は変更されましたが、元の名前や面影は現在もしっかりと残ったままです。

(参考: Captain Cook Hotel changes name – but says it has nothing to do with racism connotations / CAPTAIN COOK SETS A NEW COURSE)

Netflix から消えた作品

最後は名前の変更ではないのですが、人種差別の観点によって Netflix から消えた作品もあります。

オーストラリアのコメディアン、クリス・リライ (Chris Lilley) は、黒人などの多様なキャラクターを演じ、ステレオタイプの人種差別を助長させると長い間批判されていましたが、最近オーストラリアとニュージーランドの Netflix から「We Can Be Heroes」「Summer Heights High」「Angry Boys」「Jonah From Tonga」が削除されました。

イギリスのコメディ「Little Britain」もいくつかのストリーミングサービスから削除されています。

 

おわりに

他にもオーストラリアのビールブランドであるコロニアルブリューイングカンパニーの社名変更も求められていますし、他にももっと色々あるでしょうね。

そう言えば、私の父親の世代は差別用語をそれとは思わずに日常的に使っていたのを思いだしました。私たちも知らず知らずのうちに普通に使っている言葉があるかもしれませんよね。

時代が変われば人々の感覚も変わっていくものです。きっと、今後世界はますます変わっていくのでしょう。